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パープル・サンフラワー(小説)

マルタン丸山



第十三章 『 飛べ!低く飛べ! ・・・



       (チェ・ゲバラの話) 』







<これまでのあらすじ>



一九六八年八月、

日本人大学院生栗須は

学生紛争で

機動隊に閉鎖された学舎を後に、

横浜からソ連船に乗り、

ソ連(旧ソビエト連邦)の

モスクワから

北欧を通って

ヨーロッパに行こうとしたが、

ふとしたことから

チェコ・スロバキアの改革

(プラハの春)に対する

「ワルシャワ条約機構」の

武力介入に

巻き込まれ

「KGB(ソビエト秘密警察)」に

逮捕された後

「シベリア収容所」送りとなった。

班長「ダニー」のもと、

二十五人の「外人部隊」と

呼ばれる連中と

助け合いながら月日を過ごし、

冬将軍が飛来するころ

強烈な腹痛と高熱で

病院に収容される。

その病院の元日本兵で

病院長ドクター荻野に

一命を助けられ、

その娘の光子の協力で

中国に脱走した。

が、中国は、

[文化大革命]の真っ最中で、

下放(地方の農村での強制労働)

させられた

元紅衛兵リー・ズンシィンに、

数千万人を飢死させ

見殺しにした

「マオツオトン(毛沢東)」の

残虐な独裁政治の話を聞いた後、

解放軍に拘束されたまま

栗須・ダニー・ビルの三人だけが

北京の特別区に連行され、

マオに謁見(えっけん)する。

マオは、

栗須に関係するすべてが

「KGB」の仕業である事を

述べると共に、

マオ自身の友人の

「チェ・ゲバラ」

(西側筋のCIAが処刑

《1967年10月9日》したと発表)

の消息と救出を条件に、

光子の身柄を保証すると

約束した。

三人の若者達は、

北京空港から上海を経由し

香港に向かったが、

その飛行機「IL69」は

ハイジャックに遭遇し、

中国大陸を南下する。

そして、二人のハイジャッカーの内、

一人が元紅衛兵の

「リー・ズンツィン」

であることを知るが、

二機の解放軍機の威嚇射撃によって、

急降下したまま

もう一人のハッカ(旅する人)の

「フォン」の

実家の「円楼(えんろう)」の真上を

飛び続けた。





    1  北ベトナム ( 一九六九年 )



「飛べ!低く飛べ!」

『ダニー』が叫ぶ。

『ビル』は

エンジンレバーを前方に押し、

地上百メートルの

低空飛行を保った。

が、後方上空から、

ジェット戦闘機が、

『IL62』をめがけて

射撃してきた。

銃弾は脇をなめ、

火花を散らし

襲いかかった。

『IL62』は、

どう猛な肉食獣に狙われた

生き物の様に

乱降下し、

飛び続ける。

 真下に河が見えてきた。

 『ぎょろ目のフォン』が叫ぶ。

 「ゲンコウ(元江)だ!

河に沿って南下すれば、

北ベトナムだ!」

「もう少しで、

中国から脱出できる。」

 『リー』も同じように、

嬉しさのあまりに叫ぶ。

 「しかし……。」

   操縦しているビルが、

口を挟んだ。

 「……北ベトナムは、

中国と同じ社会主義国だから、

この中国の国旗の付いた

『IL62』を、

撃ち落とすことはないだろう?」

 栗須(くりす)が、

ダニーの方を見て言った。

ダニーが、ちょっと考えて答えた。

 「北ヘトナムは、

中国じゃなくて、

ソ連と手を繋(つな)いでたはずだ。

こりゃヤバイかもしれん。」

 「何が?」

 「北ベトナムに着陸でもすれば、

また、ソ連の『収容所』に

送られるかも……。」

 その時、

またも、前方の上空から、

解放軍機が二機、

『IL62』に、

襲いかかってきた。

ビルは、

操縦桿を前後左右に揺さぶった。

 『IL62』は、

紙飛行機が

突然横風に揺られて飛ぶように、

実に不自然な飛行を続けた。

 操縦席の全員が、

身体を椅子や扉に打ち続けた。

 解放軍機の銃弾の数発は、

『IL62』の胴体に穴をあけ、

数発が、操縦席の前ガラスに、

『クモの巣』を貼ったように

傷つけていた。

 『クモの巣IL62』は、

ひたすら河に沿って

飛び続ける。

 泣き虫の副機長が、

悲鳴をあげ続ける。

 機長は、まだ眠っているらしい。

 ダニーが、大声で言った。

 「なんとかなるさ、

 『山よりデッカイ獅子は出ぬ』

 の諺(ことわざ)だ。

ビル、北ベトナムに、突進だ!」

 「イエッサー!!」

ビルは、

『クモの巣』のフロントガラスの

間から、

前方を見つめて応じた。



   何度かの奇襲があった後、

いつのまにか、

解放軍のジエット機は、

姿を消していた。

 眼下は、緑の密林が続きだした。

どうやら、

北ベトナムに入ったらしい。

 全員がほっとした。

が、その矢先に、

突然、

胴体の真下に、

単発の弾らしきものが、

数発当たった。

 ビルは、

操縦桿を手前に引いて

上昇させ始めた。

 が、

ダニーが制止した。

 「低空飛行で飛ぼう。

単発なら

この『クモの巣』はもつが、

ミサイルを打ち込まれたら、

一巻の終わりだ。」



北ベトナムは、

アメリカの北爆に対抗して、

ソ連製のミサイルを配置していた。

事実、この年まで、

アメリカ空軍は、二十三機を、

行方不明機として発表している。

『IL62』は、

乗客乗務員合わせて、

二百六十名を乗せて、

大きな爆音を鳴らしながら、

しかし、

密かに低空飛行を続けていた。

眼下には、密林が続く。



その密林の中では、

ベトコン(北ベトナム兵)が

頭上を見上げ、

唖然(あぜん)としていた。

アメリカの『B29』ではなく、

中国の国旗を付けた

旅客機らしい飛行機が、

しかも、

手に届かんばかりの低空を

飛び過ぎて行くのだ。

無線士が、

陸本部に連絡する。

本部は、

すぐに確認の電話を

飛行軍部に連絡する。

飛行軍部は、

プノンペンの党本部に連絡する。

最終の『ホーチミン』主席に、

この連絡が入ったのは、

『クモの巣』の発見後

十五分を要していた。

『クモの巣』は、その間、

首都のハノイに

数十キロに至っていた。

ホーチミンが、

受話器を取っている時、

まさに頭上を中国機が通り過ぎた。

その爆音で、ホーチミンは、

電話を中断せざるをなかった。

彼は、中国語の堪能(たんのう)な

無線士に、

事情を確認するように命じた。





『クモの巣』の無線機に

中国語が飛び込んできたのは、

その時だった。

副機長が、応えた。

「『中華人民共和国、

IL62』旅客機です。

今、「ハイジャック」されています。

燃料が少ないので、

飛行場に誘導願います。」

間があって、返事がきた。

「『IL62』、

我が党最高指導者

『ホーチミン先生』の伝言である。

我が国は、現在、

敵国であるアメリカと

戦闘状態であり、

いかなる理由があっても、

民間旅客機を受け入れる用意はない。」



やや雑音があって、

また続いた。

「中華人民共和国に戻るか、

他国に針路を変更せよ。

ただし、

南のサイゴンに向かうならば、

我が軍は、

ミサイルで貴機を破壊する。

以上だ。」



無線は、切れた。

操縦室は、

また、沈黙が続く。



ビルはまだ低空飛行で

飛び続けている。





突然、

栗栖が前方を指差して叫んだ。

「あれは、なんだ!!」

遥か彼方に、

地面から沸き起こる

『煙の帯』が、

『IL62クモの巣』に向かって

近付いて来るのだ。



その先端には、火の玉のように

光輝く無数の点が、

並んでいる。

ダニーが叫んだ。

「ジェット機だ!!」

太陽の光に反射した、

ジュラルミンの飛行機が、

瞬くように飛んで来る。

「アメリカ軍B52爆撃機の、

ジュウタン爆撃

(ローリング・サンダー作戦)だ。」

そう叫んでから、ビルは、

無線機のダイヤルを回し始めた。

雑音が、強弱鳴り響く。

英語が

不協和音のように聞こえる。

なんとか傍受する。





「……このまま……

ハノイまで焼きつく……

おい!前方に何か、

飛行物体を発見!!

……ありゃー、飛行機だぜ!!」



ビルが、

無線に割り込む。



「……アメリカ軍機へ!

アメリカ軍機へ!

私はアメリカ人だ!

今、中国の旅客機

『IL62』で飛行中だ。

航路を間違って飛んでしまった。

……撃つな!!!」



ビルが叫んでいる間も、

黒煙と火の玉は、

近付いてくる。

「……B52アメリカ軍機、

私はアメリカ人、ビルだ。

この飛行機には私以外に、

フランス人・日本人、そして

二百六十人ほどの中国人が乗っている。

……打たないでくれ!!」



『火の玉』からは、

無数の爆弾が

地上に投下されているらしい。

横数十キロが、

一瞬にして火の海となり、

黒煙が巻き上がる。

肉眼で、はっきり見える距離になってきた。

間違いなく『B25』だった。

『アメリカン・グリーベレー』の

『絨毯(ジュウタン)爆撃』は、

百機のB25が、

横一列に並び、

無差別に、

爆弾がなくなるまで投下し続ける。

それが通り過ぎた後は、

「軍隊蟻」が

ジャングルを通り過ぎた後のように、

すべての生き物が破壊され、

燃え尽きるのである。

北ベトナムにとって、

一番恐れられていた攻撃法だ。

黒煙が立ち上り、

ビルが無線機に叫ぶ。

「……やめろ!

……撃つな!

……やめてくれ!……」

『クモの巣』のIL62が、

黒煙の真下になった時、

B52連隊は、

上昇に転じ、爆撃を停止した。





『クモの巣』は、

黒煙の中を飛び続ける。

全員が額に汗を滲(にじ)ませ、

前方の黒煙を見つめていた。

次から次と舞い上がる黒煙を、

『クモの巣』が

かき分けて飛んでいる。

が、

この大きな図体は、

煤(すす)によって真っ黒になり、

操縦室の前のガラスは、

ワイパーによって、

辛うじて白かったが、

例の銃弾による『クモの巣』の模様は、

より鮮明に描かれた。

それは、

まるで「地獄」に飛んでゆくような、

錯覚を起こさせた。

副操縦士が、やはり悲鳴を上げて、

泣き出し続けた。

ようやく意識を取り戻した機長は、

驚愕(きょうがく)のあまりに、

またも眠りに入った。

「こりゃ、無茶だ!」

ビルがつぶやいた。

「緑豊かな森林を、

こんな形で焼き尽くすなんて……。

木も動物も人間も、

一網打尽(いちもうだじん)にして……」

「それが戦争だ。

この地球の全てを破壊する。

今に、この地球には、

生物は存在しなくなる……。」





『クモの巣』の操縦室の人間の心に、

この黒煙の飛行によって、

さまざまな想いが飛来した。



十数分程で、

ようやく煙の隙間から、

大地がところどころ見えだした。

が、その大地は、

燃えた樹木と、

真っ茶色に立ち枯れた樹木が

乱立するばかりだった。

「これは、『化学薬品』による

立ち枯れじゃないか?

やっぱり。なんてことを……。

「化学薬品とは、

どういうことだ?」

ダニーの言葉に、

栗須が問い返した。

「米軍は、

この豊かな森林を

焼き尽くすだけでなく、

二度と生物が

住めないようにしている。

この場所には、

四分の一世紀(25年)以内に

生物が住めば、

肉体に異常をきたし

『癌(がん)』によって死んでゆく。

第二次世界大戦で、

ナチスドイツも日本も

研究していたやつだ。」

「人間って、なんて愚かだ。

この地球を、想い勝手に汚し、

破壊する。」



その時、突然、



副機長が計器を指差して叫んだ。

「『燃料』がない!

もう僅(わず)かでおしまいだ。」

全員の目が、

一つの計器に吸い付けられた。

なるほど、針は、

「0」以下に停止するように

沈んでいた。

リーが尋ねた。

「補助燃料は?」

「ない。

これが補助燃料だ。」

副機長が答えた。

リーが無線機に、

中国語で話し出した。

「こちら『IL62』、

こちら『IL62』、

応答願います。

……応答願います。

燃料がない。

飛行場に誘導願います。」



返事を待った。



が、何の応答もない。

ビルが、無線機に英語で話す。

「こちら『IL62』、

こちら『IL62』、

応答願います。

……応答願います。

私は、アメリカ人、ビルだ。

燃料がない。

飛行場に誘導してほしい!」

「見ろ!」

ダニーが、

右方向を指さして言った。

そこには、

『ダグラス47型機』が、

脇に付いて飛んでいる。

左右前後に六機の戦闘機が

ついているらしい。

「こちら、『IL62』だ。

燃料がない。

誘導を願う。」

「了解。

我々はアメリカ空軍だ。

君の機を誘導する。」

「私の機は、

燃料がほとんどない。」

「分かっている。

空中給油機『KC130』が、

後ろに待機している。

君の機の燃料が底をついたら、

補給する。

ここは、北ベトナムだ。

なんとかあと50キロ飛び続けろ。」

「燃料が底をつくと、

そのまま下に落っこちないか?」

「大丈夫だ。

尾翼さえあれば、

飛行機は、

グライダーのように飛び続ける。」

「了解!」

ビルは、「操縦桿」を固定させて、

上半身をリラックスさせた。

が、すぐにガタガタと衝撃が、

『IL62』に走り、

傾いた。

ビルは、すぐに無線機に叫んだ。

「ビルだ。

エンジンがおかしい。

ダウンスイングのようなものが走る。」

「了解。こちらからも見えた。

『ソ連製イリューシン62』は、

我々の機種とは異なるようだ。

燃料ハッチを開けろ。

燃料を補給する。」

ビルは副機長から、

燃料スイッチの

レバーハンドルの位置を聴き、

押してみた。

給油機が、

『IL62』の右横について飛ぶ。

脇腹から長い管が

『IL62』の前部の燃料タンクに

差し込まれる。

「ビル、見えるか?

……我々の

『乳牛(補給機のニックネーム)』だ。」

燃料掲示板の計器が、

「0」から「1」へと上がり、

それ以上に上昇し始める。

操縦室は、

やや明るいムードに包まれ出した。

が、

その時『ミサイル』が、

地上より突如、

発射された。

木の枝で

カモフラージュされた発射台から、

飛行隊目掛けて

発射されていたのだ。

「ミサイルだ!!!」

どれかの一機が、叫んで、

囮(オトリ)ミサイルを発射した。

が、遅かった。

敵ミサイルは、

給油機に、みごとに命中した。

そして、空中大爆発が起こり、

給油機は、火の塊になった。



ビルは、

その爆発の強烈な発光で目がくらみ、

操縦桿を引いていた。

そのために、

『クモの巣』は急上昇し、

逆に、給油機の管がはずれ、

共倒れなく、難を逃れた。

燃料補給機は、

真っ赤な火の塊になって落下し、

地上に激突した後、

二度目の爆発を起こして、

木っ端微塵になった。

「ビル!君達の機は、

ラッキーな奴だ!

我々の『乳牛』が、

君たちの身代わりなった。」

「『乳牛』にお悔やみを言うよ。」

「ビル!俺の名は、

『ファンレット』だ。

燃料は、どうだ?」

「『8』の位置にきている。」

「O・K。了解。

それなら我々の

『酪農場(基地)』に行ける。

……上昇せよ!

……我々が誘導する。」




ビルは、操縦桿を引き上昇した。



が、突然、

機が、方向転換し始めた。



「ビル!!何をする気だ!!」

ダニーが叫んだ。

と同時に、

無線機から、

同じように、

ファンレットの

金切り声が聞こえていた。



しかし、ビルが、

はっきりした口調で言った。

「ダニー!! 俺は、

『ホーチミン』と、話しをする。」

「何故?!!」

「この戦争を、

終わらせるんだ。

……このままだと、

ベトナム全土が、

化学爆弾と絨毯爆撃で、

壊滅してしまう!」

ビルは、そう言って、

無線機のスイッチを入れた。

「ファンレット!それに

『牛(アメリカ空軍)』のみなさん、

ありがとう!私は、

『北ベトナムのホーチミン』と

話しをしてくる。

この戦争を『終わらせる』ために……。

うまく戻って来たら、

よろしく頼む!」

「ビル、正気かい?

二度と戻れないぜ。

『ミサイル』を見たろ!!」

「・・・かもしれん。

しかし、誰かがやらなきゃ、

戦争を終わらせる努力を……。

このままじゃ、

ベトナムもアメリカも死滅する。

君や僕たちのように、

若い者が虫けらのように

死んでいくのを、

黙ってはいられない。」



「分かった。

『酪農場のボス

(アメリカ指令長官)』に

伝えておく。

そして、

いつでも飛び立てるように、

待機している。

……幸運を祈る……。」

誘導していた

『ダグラス47型機』は、

いっきに南下し始めた。




『クモの巣』は、

正反対の方向に

進路をとっていた。

栗須がビルの横顔を

見ながら言った。

「ビル、本当にやる気か?」

「パープル、君は知らないだろうが、

俺は、

ベトナム戦争に行くことを嫌って、

オックスフォードの

『ローズ財団』の

留学試験を合格した……」

ビルは、

過去の出来事が

去来したかのように

口をつぐみ、

ちょっとしてから

口を開いた。



「……しかし、

今、アメリカの若者が

三万数千人が死に、

十数万人が負傷し、

ベトナム人に至っては、

十数万人が死に、

同数の負傷者がいる。

そして、

今なお同じ民族で

北と南に分かれて

殺し合っている。」

ビルは、大きく息を吸った。

「……もし、

俺に出来ることがあるとすれば、

この無意味な戦争を

『終わらせる』ことを、

叫び続けることしかない。」



「分かった。

行こう!ハノイ に!!」 

栗須は、そう言って、

ダニーを見た。

ダニーがビルに言った。

「ビル、

君の言う通りだ。

お前さんに従おう。

俺たちが今出来ることは、

それしかない。

やってみようじゃないか。」

ダニーが、言った。

「『ホーチミン』は、

英語より

フランス語の方がいいだろう。

二十数年前まで、

ベトナムは、

フランス領だった。

彼は、

フランス語を話すはずだ。」

ダニーが、

副操縦士の無線機を

手に取って

スイッチをいれ、

『フランス語』で喋りだした。



「私は、

中国機に搭乗している、

フランス人のダニーだ。

……ホーチミン主席と

話したい……。

私は、

中国機に搭乗している、

フランス人のダニーだ。

ミサイルは、

打たないでほしい。

話しに来た。」






前方に、

先ほどの黒煙が見え始めた。

ビルは、

右にエンジンレバーをきり、

迂回しながら北上した。




「こちら『IL62』……。」



ダニーが繰り返す。

「この機には、

二百六十人の人間が搭乗している。

大多数の中国人と、

その他に日本人と

アメリカ人と

フランス人の私ダニーだ。

『ホーチミン主席』と話したい。

これ以上、

戦争をしても、

ベトナム全土が死の灰となり、

国民のすべてが傷つく。

『停戦』すべきだ。

我々が、

必ず国際世論に訴えて、

アメリカの戦争違反を告発する……。」





この無線を、

ハノイの『ホーチミン主席』が

聴いていた。

実は、

『IL62』が

ハノイ上空を進入して以来、

それ以後の『IL62』の動向は、

ベトナム語に通訳させて、

逐一聴いていたのだ。

が、ミサイル発射は、

現地指揮官の

独断の命令だったため、

ホーチミンは、

その指揮官を即刻、

格下げにした。

なぜなら、

今のベトナムにとって、

もし、

中国の旅客機が爆発したなら、

とんでもないことになる。

中国ともめ事を起こして、

背後から攻められでもすれば、

一溜まりもない。

この時、

ホーチミン主席は、

『IL62』の無線を

疑心暗鬼で聴いていたが、

突然のフランス語で、逆に、

気分が和らぎ、聴き入った。

『年老いたホーチミン』は、

フランス語の

鼻にかかった響きに、

心を和ませていたのだ。

彼は、若き日々、

フランスの植民地政策と

戦っていたが、

フランス語は、気に入っていた。

幼い頃、彼の母が、

彼に教えた、

あの『甘いまろやかな響き』が、

彼の心の底に潜んでいたのだ。

ところが、

通訳がどぎまぎしていた。

英語は堪能な通訳だが、

フランス語は、

からっけし出来なかった。

まわりの者に助けを求めたが、

誰一人助けられる者はいなかった。

ホーチミンは、

直接、無線機を取り上げて、

口を付けて話し出した。

「私には、君の話す言葉は、

少し理解出来る。

ダニー君じゃったか?

もう一度、言い給え!」





『クモの巣』の操縦室は、

緊張に包まれた。

間違いなく

『フランス語』が

聞こえてきたからだ。

雑音のように

嗄(しわが)れた声に対し、

ダニーの若々しい声が、

先ほどのメッセージを、

ゆっくり繰り返した。

すると、嗄れた声で、

また、フランス語が返ってきた。

「わしには、

その意志はある。

やめないのは、

アメリカだ!」

嗄れてはいるが、

なかなか流暢(りゅうちょう)な

フランス語だった。

ダニーがゆっくり話し出した。

「今、われわれは、

『ジュウタン爆撃』と

『化学兵器爆弾』を、

この目で見てきた。

そして、また、

ミサイルが補給機を

打ち落としたのも見てきた。

この戦争は、

まったく『無意味』なものに

なっている。

ただ破壊だけである。

すぐに『停戦』の

話し合いに入るべきだ。」

「私もそれを願っている。

まず、

アメリカが手を引くことだ。

ベトナムは、

ベトナム人で解決する。」



「分かった。

アメリカに必ず伝える。

もし、

『停戦のテーブル』が用意されれば、

そのテーブルにつく

『意志』はあるか?」

「ある。」

「では、この無線を、

ホーチミン主席に

繋いで頂きたい。」

「『わし』が、『ホーチミン』だ!」

「……あなたが、『ホーチミン』……?」

「ベトナム社会主義共和国、

国家主席、

ホーチミンだ!」



ダニーの通訳で、

操縦室は、

喜びと安堵(あんど)に包まれた。

   ダニーが微笑みながら、

無線機に話し出した。

「ホーチミン主席、

ありがとうございます。

このことは、必ず、

アメリカと南ベトナムに伝言します。

無論、この会話は、

傍受されているだろうが……。

今後、あなたと話したい時は、

われわれは、

どのようにすればよいですか?」



「パリの『北ベトナム』大使館に、

君の名前を言えば、

話せるようにしておく。

今後は、パリが窓口だ。」

「了解しました。」





『IL62』は、その時、

ちょうど「ハノイ」の

上空に来ていた。

「我々は、今、

あなたの上空を飛んでいます。

いつか、このハノイで、

お会い出来ることを

楽しみにしています」



「戦争が終わったら、

君たちをこのハノイに招待しよう。」

「ありがとうございます。

……ただ一つだけ、

あなたにお願いがあります。」

「それは、なんじゃ?」

「……我々が無事に

アメリカと会話できるために、

『ミサイル』は、撃たない、

と約束して頂きたい。」



「分かった。

全司令官に連絡しよう。

君たちは、

このハノイの上空を

『五分間旋回』した後、

一旦

『ラオス』に出て

南下し、

サイゴンに行くがいい。

幸運を祈る。」



ホーチミンは、

部下に

すぐ無線で連絡することを伝えて、

中庭に出た。

上空で

「大きなカラス」が舞うように、

煤で真っ黒になった

『IL62』が、

旋回していた。

ホーチミンは、

杖をついて見上げながら呟いた。

「若いということは、

いいことだ。」



『IL62』は、

五分旋回してから南西に飛び、

南下した。

ビルが、無線で

アメリカ空軍の

「ファレット」を呼んだ。

すぐに、

ダグラス47型機二機が、

『クモの巣』を誘導し始めた。

二十分程で、

ダナン空軍アメリカ基地の

上空まで来て、

ビルは、

着陸に一度失敗したが、

衝撃なく『着陸』させた。







ダナン空軍アメリカ基地内で、

飛行機酔いの

ひどい状態になっている

スチワーデスを初めとして、

二百六十名あまりの

中国人乗客は、

手当を受け、

意識を回復した

機長の操縦で、

その日の内に、

香港経由で

上海に向かった。







人道的見地から、

中国を初め香港総督、

アメリカのニクソン大統領

(「L・B・J」の次の

第三十七代アメリカ大統領)らが、

迅速に事を進めていた。







余談であるが、

機長と副機長と

スチワーデスの乗務員は、

無事に

乗客全員をを連れ戻した

「功績」を讃えられ、

「盛大に祝福」されたそうだ。






   2 チェ・ゲバラの話





二日後。




三人の若者(栗須・ダニー・ビル)は、

サイゴンの米軍基地に移され、

尋問に答えていたが、

彼らの宿舎に、

一人の大男が訪れて来た。

分厚い眼鏡で

獅子っ鼻のその男は、

五人のSP(要人護衛)らを

従えていた。

ビルが、その顔を見て、

直立不動で突っ立ったので、

全員が同じ姿勢をとった。

大男が、

自分からはっきり名乗った。

「私は、

アメリカ国家安全保障担当

大統領補佐官の、

ヘンリー・A・キッシンジャーだ。」



キッシンジャーは、

ニクソン大統領の命令で、

南ベトナムのサイゴン政府と、

今後のベトナムについて話すために、

前日、この地に来ていた。



「……アメリカを、

ベトナムから救い出す道を

捜している。

……君たちが、

その糸口を

見付けてくれたらしいね。

私に、もう一度話してほしい。」



ビルは、これまでの一部始終を、

キッシンジャーに語った。



キッシンジャーは、聞き終わった後、

言った。



「君たちの力を貸してほしい。

今すぐ、

北ベトナムと会話したい。

そして、中国と……。」

「補佐官、

あなたのお気持ちは、

ごもっともです。

私たちは、

必ずお力になる所存です。

……が、

『二つの質問』を

させてもらっても

いいでしょうか?

まず、一つは、

我々と一緒にいた、

中国人の「リーとフォン」は、

どうしましたか?」



補佐官は、

側近と小声で話し初めて、

すぐに三人の方を見て答えた。

「彼らは、

二人とも『アメリカ亡命』を、

申し入れてきた。

アメリカ本土で、

『中国民主化運動』を始めるために、

アメリカ行きを希望した。

明日にでもアメリカに渡るだろう。

出発する前に、

君たちに会わせよう。

……もう一つは、

何だね?」



「我々は、

マオツオトン中国国家主席との

約束があります。

『チェ・ゲバラの消息』及び、

『存命時の救出作戦』です。」

「報告書で、それは読んだ。

が、チェ・ゲバラは、

もう死んでいるよ。」

「CIA(アメリカ国家情報部)は、

そう発表しています。

しかし、

マオ主席は、

信じていません。

そして、

我々も信じていません。」

キッシンジャーは、

若者達の一人ひとりの顔を見た。

そして、

いつもの癖の、

顎(あご)の辺りを

左手の親指と人差し指でさすり出した。

これは、彼が

思案する時のしぐさだった。

少し間があった。

そして、咳払いしながら、

喉の奥で声を出した。

「……実は、……。」

キッシンジャーは、

左側の一人に、

顎の手をはずして、

合図をした。

そして、側近から

アタッシュケースを受け取って、

側近達に、

部屋の外で待っているように指示し、

中からファックス用紙を取り出した。



側近達が出たのを確認してから、

言った。

「……実は、

……マオツオトン主席の

おっしゃる通り、

『チェ・ゲバラ』は、

まだ、

生きているらしい。」

「やっぱり!」

と、ダニーが頷きながら

口を挟んで尋ねた。

「彼は、今、

どこにいるのですか?」

キッシンジャーは、

口ごもりながら、

その質問に答えずに、

話し続けた。

「……CIA(アメリカ情報局)の

あの行動は、

間違っていた。

チェ・ゲバラを射殺するなど……。

CIAの一部は、

手柄を立てたかった。

ボリビアの山岳で、

足を撃って身動きできない彼を、

粗末な小屋に掘り込んでいたが、

酒に酔った若い軍曹が、

首と心臓を撃って処刑した。

……、ここからは、

君たちと私とだけの

会話にしたい。

全てシークレットになるが、

約束できるかい?」

キッシンジャーは、

三人の顔を順に確認した。

三人は、確認の合図を送ったので、

話しを続けた。





「……実際は、

別人だったのだが……。




一九六七年十月九日



『あの写真』を発表した後、

(エルネスト)チェ・

ゲバラの実弟

『ロベルト』が、

兄かどうかの確認を

申し出て来た。

弟はその時、

メキシコで生活していたので、

チェが殺されたボリビアまで、

飛行機で二時間だ。

が、CIAは、断った。

実は、その時には、

死体を

遺棄したままだったから、

死体は

腐乱してひどい状態だった。

熱帯の十月は、

まだ、

昼には四十度を超す。

チェの友人のキューバの

カストロ(大統領)』は、

死亡の報道を

信じなかったが、

一週間後に、

チェが

毎日書き綴っていた『日記』が、

彼の手元に届いて、

死亡を発表した。

その『日記』は、

チェが、

片時も自分の身から

手放さなかった。

カストロが

一番よく知っていた。」



キッシンジャーは、

そこまで、一気に喋った。

「別人だと、

何故分かったのですか?」

ダニーが、口を挟んだ。

が、それにも答えず、

次のページを見ながら続けた。



「……粗末な部屋に

投げ込まれたチェを

助けたのは、

『インティ』という『老婆』だ。

老婆といっても、

四十五歳だ。

貧しさのために

二十は老けていた。

その婦人は、その日、

チェ達が

戦闘の途中で後退していた時、

チェ達を

部屋にかくまったことがあった。

その時には、

彼らは傷ついていなかった。

彼女の粗末な家には、

痩せこけた病気の娘がいて、

二人暮らしだったのだが、

チェ達は、

老婆に幾らかの『ペソ』の

紙幣を渡して、

また出かけた。……。

が、襲撃にあった。

チェは、足を一発撃たれ、

身動きが出来ない状態で

捕まった。

そして、老婆の家の側の、

学校と呼ばれている

粗末な家に

掘り込まれたのだ。

CIAは、

チェのポケットから

『日記』を取り出した。

それが

『チェ本人』であることを確認する、

唯一の『証拠』だった。





彼らは、上官から

『殺すな』

と指示されていたから、

もう『片方の足も撃ち』、

身動きできないようにして、

全員で

振る舞い酒を飲み出した。

彼らの手に、

一生遊んで暮らせる

『ドル紙幣』が、

すぐにでも入るのだから、

誰だってそうなる。

『老婆の家』には、

同じく足を一発

撃たれていた同士の

『ウイリ』が、

逃げ込んでいた。

『ウイリ』は、よく、

『チェ』と間違えられることが

あったほど、『似ていた』。

特にその時は、

数ヶ月間の戦いで、

みんな髪が肩まで伸び、

髭も伸び放題だった。

『ウイリ』は、

足を引きずりながら、

裏戸から出て、

『チェ』が入れられている家の

裏戸から中に入り、

『チェ』を引きずり連れ出した。

そして、

『インティ婦人』の部屋にかくまい、

自分の持っている『ペソ』と

『薬』のすべてを渡して、

後のことを頼み、

自分は『チェ』と入れ替わるために

戻った。

その時のCIA部隊は、

やはり、

振るまい酒で上機嫌になって、

酔っぱらったままだった。

『捕虜は、殺してはならん』と

言われていたので、

若い戦士『テラン』は、

酔いに任せて小屋に入り、

足を撃って弄(もてあそ)んだ。

が、『チェ』が、

罵(ののし)りの言葉を

浴びせたのに対して、

短気な『テラン』は、

腹を立てて喚きながら、

首と心臓を撃って『処刑』した。


ただし、

相手は『チェ』ではなく、

『ウイリ』だったが……。」









みんなは、黙って

この状況を想い描いた。


「その後、

どうなったんですか?」

ビルが、重い口を開いた。

キッシンジャーが、

次のファイルを見ながら

続けた。





「『インティ婦人』は、

『チェ』の左右の足に

血止め薬を塗り、

布を巻いて、

病弱の娘の横に寝かせ、

わら布団をかけておいた。

もし、兵士が入って来ても

分からぬようにした。






二日後、



『インティ婦人』は、

村の農民に、

娘の様態が悪いので

病院に連れて行く、

と言って、荷台を借り、

小屋を出て行った。

そして、

まる一日かけて、

娘とチェを

『ラパス』の街に連れて行って、

ある『病院』の裏口に止め、

中に入って、

『病院長』に面会を申し入れた。

そして、

受付嬢に『メモの紙』を渡した。

受付嬢は、

その薄汚い『老婆』を

怪訝(けげん)そうにしていたが、

病院長の正式な名を

知っていたので、

取り次いだ。

病院長は、飛んできて、

『老婆』と『荷台』を

病院の中に入れた。

そして、

その日は、

すぐに『休診』にし、

病院を閉めた。……。

外科医の病院長なら、

手術して、

弾丸を取り出すことは出来る。







この話は、

後に、

『老婆』がマスコミに述べた内容だが、

当時は、

『チェ』の親類や友人や

知り合いという

輩(やから)が、

万と数えるほど出てきて

語りだしていたので、

薄汚い『老婆』の話に

耳を傾ける者はいなかった。

日本人のジャーナリストの 『三好徹』が

一番熱心だったが、

結局、

証拠も何もない『老婆』のことは、

公言しなかった。

病院長が、

否定しているのだから、

公言など出来ない。

ただ、

その病院長は、

チェが卒業した

『アルゼンチン・ブエノスアイレス大学

医学部』の卒業生で、

しかも『チェ』と『同級生』で

あったことだけが、

気にかかる。

その後、

この婦人は、

その病院に雇われ、

娘も

病気が回復に向かっているらしい」




キッシンジャーは、又、

冷めたコーヒーを口に入れて、

続けた。





「南米の民衆は、

アメリカのことを

『北の巨人』と言っている。

嫌みを込めての言葉だ。

植民地化された格差社会は、

アメリカ資本と関係した人間と、

どん底でうごめいて生きている人間の

二分化だ。

『チェ・ゲバラ』は、

上の社会に生まれた。

が、彼は、

中学生の時から各地を旅し、

民衆のどん底の生活を

自分自身で体験していた。

彼は、

『民衆のための革命』を理想とし、

実行していた。

『キューバ革命(一九五九年)』の後、

カストロの下で要職に付いたが、

彼の腹の虫は、

じっと机に座っていられなかった。

すぐにボリビアの『人民解放部隊』に

戻っていった。

戻る前に、

年上の『カストロ』に、

次のことを言って、

去って行ったそうだ。




『独裁者には、

ならないでほしい。

人間は、上に立つと

『自分の地位保全』のみを考え出す。

真の革命指導者は、

『人民の地位保全』を考えて、

行動する。』







その後は、

先ほど話した通りだ。

アメリカにとっては、

『チェ・ゲバラ』の死亡は、

『キューバ革命』によって低下した

『アメリカの地位保全』のために、

実に好都合だった。

しかし、これでは、

いつまでたっても、

世の中は良くならない……。」




キッシンジャー長官は、

テーブルの上の

冷めた「コーヒー」を飲んで、

また、続けた。




「『ゲバラ』の死亡発表の

一九六七年十月から、

十一ヶ月後の、

一九六八年十月の軍隊による

『パナマ革命』、

そして、十一月の、

パナマ市民と学生の

軍に対する抗議デモ。

その後、

軍によって指導者は逮捕され、

虐殺されている。


もし、マオ主席の言うように、

チェ・ゲバラがパナマにいたとして、

……。」




キッシンジャーは、

左手の親指と人差し指で、

顎の辺りをさすり始め、

黙りこくって目を閉じた。





部屋の中は、

沈黙が支配した。

キッシンジャーは、

何かを思案していた。





しばらくして、

左手を止めて、

また、話し始めた。




「……両足を銃弾によって撃たれ、

手術した人間が……、

十一ヶ月で……、

民衆と共にデモに参加し、

活動が出来るかどうか…………。

そして、そのデモ隊の中から

逃げ出せるかどうか……。」




また、左手を動かし初めが、

何かを決心したように、

アタッシュケースを開けた。




「……私は、あなた方に、

次の『写真』をお見せしようと思って、

本国から電子郵便で送らせ、

ここに持参している。」


キッシンジャーは、

ケースから、

一枚の『写真』を取り出した。


その「写真」には、

砂漠の中の遊牧民の、

移動テントが映っていた。

そして、その入り口の柱にもたれ、

白い日よけの

「ターバン」を頭に巻いた

一人の男がいた。

その写真を、

三人に回してから、

キシンジャーは言った。

「その写真の男を、

どう思う?」

三人は、顔を見合わせた。

が、

小さすぎて判別が出来なかった。

キッシンジャーは、

もう一枚の写真を取りだして、

見せた。

粒子が粗い「男の顔」である。

ダニーが、突然、

叫んだ。




「ゲバラ!!!」




「そう・・・、

君にもそう見えるか?

わたしにも・・・、

そう見える。」

キッシンジャーは、

ダニーの方を見て、

少しだけ微笑を浮かべて、

言った。

「これからは、

私の『推測』だが……。

あの後、





……『あの後』と言うのは、



『例の医者の手術』の後

のことだが、



……彼は、身動きが出来るまで、

あの例の医者のところにいて、

そのあと、

『古い友人』の所に

身を寄せたように想える。」





「古い友人?」



ダニーが、また、

口を挟んだ。

ダニーは、

ゲバラの熱狂的な支持者だったので、

すべてを知りたいのだ。

「『リビア』の

『カダフィー』という人物らしい。

彼らは、

『ソビエトの革命四十周年』で、

モスクワで出会った。

マオ主席も、

キューバのカストロも

その時に出会っている。

『カダフィー』は、

今現在、

軍隊の将校で、少佐だ。

……この写真の砂漠は、

『リビアのサハラ砂漠』らしい……。




どうだね?この推測は?・・・

行って見るかい?

ゲバラに逢いに……。

これは、あくまでも、

私個人の情報であり、

私個人との約束だ。

君たちが、アメリカと、

北ベトナムや中国の仲立ちに、

早く、しかも

全力を尽くして貰うために……。」





「キッシンジャー大統領補佐官、

我々三人で相談する時間を下さい。」


ダニーが言った。

「わかった。

よい決定を待とう。

決定したら、

この私個人の連絡先に

知らせてもらいたい。

それ以後も

この連絡先での会話になる。」





そう言って補佐官は、

三人にカードを渡し、

立ち上がって一人ひとりと握手をして、

部屋から出て行った。





補佐官が帰ってから、

三人は、

夜遅くまで語り合った。

そして、三人は、

キッシンジャー大統領補佐官の言葉を

信用した。




次の日、

リーとフォンが、

彼らに会いに来た。

二人は、喜びの涙を流し、

彼らとの再会を約束して、

「アメリカ」へ旅だった。

彼らは、

後に、

「中国自由化運動」で活躍する。





三日後。 

三人は、香港に渡り、

シラトンホテルで、

マオ主席の連絡係の

『チョウ(張)』と落ち合った。

チョウは、

マオ主席の伝言を読み上げた。

そこには、

キッシンジャー補佐官から得た情報と

同じ内容のものが、

書かれてあった。

ダニーがつぶやいた。

「『リビア』に、何があるんだ!

チェ・ゲバラも

キッシンジャーも

マオ主席も、

何故アフリカの後進国(発展途上国)に

眼を向けているんだ。

……分からん。……何がある。

……みんなで行ってみるか!」





三人は、

香港国際空港から、

一路『リビア』に飛び立つ。







アフリカの北端『リビア』!


暑い熱い砂漠の国『リビア』!


そこには、いったい何があるのか?・・・



         





第十四話「リビアンスター」に 続く








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第一章   白夜のささやき

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第二章   カットグラスの輝き

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第三章   裁き

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第四章   轟(とどろ)き・・・

 (ダニーの話)

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第五章   ラーゲルの吹雪(ふぶき)

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第六章   殺人の痕跡・・・

 (ドクター荻野の話)

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第七章   「アッシュ」の手引き・・・

 (ビルの話)

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第八章   偽装の閃(ひらめ)き

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第九章 ダイヤモンドダストの瞬(またた)き

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第十章   若き紅衛兵の嘆き

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第十一章  マオ・ジュウシの駆けひき・・・

  (五人めの妻の話)

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第十二章 ハッカ(旅する人)の呟(つぶや)き

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第十三章  飛べ!低く飛べ!・・・

  (チェ・ゲバラの話)

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第十四章  リビアンスター・・・

  (リビアの星)

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