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『 1年2組 学級日誌 』  (新長編小説) 
      ・・・半世紀前の女子高の学級日誌・・・
        (昭和47〈1972〉年4月~48年3月まで)



  



【6月18日(日)雨 50番M・K】

 今日は雨。私、雨は大嫌い。

今、10時15分。もちろん朝です。

家の中は静かです。

なぜなら、家族は、

[ 田植え ]に行ったからです。

私もほんの15分前まで行っていました

今年初めて田植えをしました。

上手くいかないものネ。

植えた筋が、

M先生の髪の毛 みたいです。

(いろんな方向に

曲がっているのであります。)

田の中の水が、とても冷たかった。

それにほら、水の中に入り過ぎたので、

手の皮がたるんで、

ぶよぶよですヨ。

イヤダワ。でも、私は幸せです。

 こんな田舎だけど、

「夢」があるわ!!

だって、さっき植えた「稲」が、

10㎝になり、30㎝になり、

みが実って、

秋には黄色い服に着替えの。

そして、私が側を通る時は、

みんな今にも地に着くほどに

頭を下げてくれるのヨ。

今は雨だけど、

秋には真っ青な空になるワ。

青い空に黄色い稲。

それに黒い土。

そして私の周りには、

紅色になった小さな草が

春への希望を、

私に話し掛けるの。

また、真っ青な空では、

雀のチュンチュンと

忙しげに飛び回る。

私みたいなのん気な人間は、

こんな自然の中にいるのが

似合っているみたい。


 M先生、

私が「JK」に行くことになって、

嫌なことって何かわかりますか?

それは、

空がないってこと。

真っ青な空がないってことです。

M先生が

「今日は良い天気だから……」

と言われますが、

私はそうは思いません。

私が知っている「良い天気」は、

中学の時に見た

冬の晴れた日のことです。

授業中、

眠くなってウットリウットリと

していました。

授業も終わりに近付いて、

だんだん居眠りが覚めて来たころ、

ふと窓の外を見たのです。

そこにあった空は、

美しいとしか言いようのない位

美しい空。

窓の側には

銀杏の木はなかったけれど、

そのあか抜けたすっきりした姿と

青い空とが、

とても美しいと思ったんです。

 私の好きな空というものは、

青い所にポカット

小さな雲が浮かんでいる空です。

でも、大阪に通い出して

3ヶ月になりますが、

1度だって

そんな空を見たことはありません。

小さい頃から、

東京や大阪に憧れていた私。

でも、「田舎っぺ」と言って

バカにされるんじゃないかと心配した私。

でも、今の私、

東京よりも大阪よりも、

ずーっと素晴らしい

田舎・奈良に住んでいる。

誇りというか、とにかく

素晴らしい田舎に住んでいるのが、

とっても幸せで

一生この土地から離れたくありません。

だって、春になれば蝶々がが飛び回り、

夏になれば、蝉がミィーミィーと鳴く、

冬になれば道が凍てつき、

水田んぼに氷りが張る。

その氷を割るの……。

M先生だって小さい時

やったんじぁありませんか?

素晴らしい。


 でも、大阪にもきっと何か、

田舎にはない素晴らしいことが

あると思います。

「JK」に来たんだもの、

一つくらい見つけたいな

と考えているんです。

M先生、大阪に残っている

素晴らしい自然を知っていたら、

教えて下さい。

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 自然を愛する事って、

大事なことだ、と思います。

自然を愛することの出来る人は、

「心にゆとり」がある人なのです。


 現代の大阪には、

君が望むような自然はありません。

では、大阪で自然を見る時は、いつか?

それは、雨の日!

雨は、都会の醜(みにく)いものを

すべて流してくれる。

建物の汚れや、道のゴミや、

空のスモッグまで。

すべてのモノが埃(ほこり)のために、

それ自身の色を失い、

ただの物体として存在しているが、

ひとたび雨が降れば、

ただの物体が生き物として活動し、

本来の自分自身の色彩を取り戻し、

乾ききった心を癒して(いや)してくれる。

汚れた醜い自分の心を、

汚れのない自然の心にしてくれる。


   田舎にはない都会の自然、

雨の日の夜の車道は、

生きています。

前に走る車の赤いバックライトや

左右の指示燈が、車道に映った時、

柿色の炎に変わり、

黒い絨毯(じゅうたん)の車道に燃え移る。

朝の4時の都会の道路が

どのように見えるかと言えば、

墓場です。

昨日死に絶えた

夢と騒音を乗せて、

眠りこけている。

また、雲に覆われた

太陽の光に顔を向けながら、

壊れたレンガに腰掛けている

盲目の男性。

一人ぼっちで立っている子供。

まるで、その瞬間、

子供であるという喜びも怒りも

忘れはててしまったように、

人間が生まれた厳粛(げんしゅく)さに

頬を輝かせて立っている。

また、地下鉄で逢ったお婆さんも、

八十にもなるのに、

十八歳の娘もかなわないほど

美しかった。

なぜか?それらは、

生きている喜びと悲しみの

結晶だから。 以上

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