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『 1年2組 学級日誌 』 (新長編小説)
・・・半世紀前の女子高校の学級日誌・・・
(昭和47〈1972〉年4月~48年3月まで)
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【10月28日(土)晴 45番 M・K】
最近の詩を書きます。
夏の終わりです
恋も終わりです
許されない恋は
もう忘れます
運命だと思って
いたずらなくちづけも
もう さようなら
そこに秋が来てるから
終わった恋は 貝がらといっしょに
捨てました
あの日の海へ
さぁ 帰りましょう……
私の世界へ
早くしないと
秋が来てしまいます
すいません!!
M先生をドキッとさせるような
詩を書いてしまって。
だけど、一年二組の日誌だから書いたんです。
許されますよね。
M先生、今年の夏休み、
悲しい恋を知ったんです。
アー、分かって貰えるかな?
この気持ち。
ジュリーの歌じゃないけど、
「許されない愛」だったのデス。
M先生、誰にも内緒です。
もくせん
毎朝通る お寺の庭に
もくせんが 咲いています
あなたの好きなもくせんです
今日もいい香りがしました
でも 花が散ってしまう事を思うと……
もくせんは お寺に
多いのでしょうか?
あなたと行った あの寺も咲いていましたね
淡い香りのもくせんが……
もくせんを見上げ
このごろ何か足りないものを感じます
もくせんに 手が届かないからかしら?
それとも
あなたの声を聞いてないからかしら?
もくせんを見上げ
このごろ涙ぐんでしまいます
あまりに
オレンジ色が目にしみるからかしら?
それとも
あなたに会ってないからかしら?
明日も又 坂を降りて
あなたの香りに
会いに行こうと思います
私、詩を書くには、
何に対しても
「愛」が必要だと思うんです。
私って変ですよね。
詩が浮かばない時は、
3ヶ月も4ヶ月も浮かばないんだけど、
ある時は、1週間に10も出来ちゃうんです。
もう一つ書きます。
FirstKissは冷たいの
誰からも熱いって聞いてたのに
FirstKissは切ないの
誰からも夢のようだって聞いてたのに
FirstKissは苦しいの
誰からも胸はずむようだって聞いてたのに
許されない恋に私が真剣すぎたから?
それとも愛のないKissだったから?
FirstKissはレモンの味なのに
私のFirstKissは
涙色の味がしちゃった
読者諸君に告ぐ。
あまり現実的に
この詩を鑑賞しないで下さい。
ところで、M先生、
元気出してよ。
2組は、イイ組だよ。
先生の理想が高いのと、
あまりにも何もかも純粋過ぎるから、
少しのショックでも大きいと思うの……。
先生いつも言ってるジャン!!
「山より大きな
イノシシは出えへんで!!!」
文化祭バッチリ!!!!大丈夫だよ、
兄貴!!!!
==============/===============/=============
励ましの言葉ありがとう。
そうだった
「山よりでっかい獅子(しし)は出ん」
だった。了解した。
君の詩を読んで、
心配しています。
この夏休みに、詩の内容の様な事が
現実にあったように
読めたからです。
先生の勝手な想像です。
が、詩から伝わって来ました。
もし、そうなら、
自分を大事にして下さい。
成り行きに任せて
行動しないで下さいね。
先生の取り越し苦労だと思うけど……。
いつでも相談しに来て下さい。
お節介やきのM先生より。
話し変わって、
君が詩を書いているので、
詩を書きます。
「百足(むかで)は幸福だった」
百足は幸福だった
悩み事はなんにもない
蛙(かえる)が余計な事を言うまでは
「どの足を最初に動かすんだい?」
そう言われた百足は
考え込んでしまった
考えれば考えるほど
分からなくなる
とうとう歩き方を忘れて死んでしまった
詩人は幸福だった
悩み事はなんにもない
誰かが余計な事を言うまでは
「どうしたら詩は書けるんだい?」
そう言われた詩人は
考え込んでしまった
考えれば考えるほど
分からなくなる
とうとう書き方を忘れて
死んでしまった
死んだ百足と詩人は
悩み事は何にもない
死んでしまった後だから……
「考える事はやめにした」
そう言い切った彼らは
感じだしちまった
感じれば感じるほど分かってくる
とうとう歩き出しながらにして
書き出した
君は幸福だった
悩み事は何もない
誰かが余計な事を言うまでは
「いつにしょう、鐘を鳴らすのは……」
そう言われた君は
鳴き出しちまった
泣けば泣くほど分からなくなる
とうとう泣き方を忘れて 笑い出した
百足も詩人も君達も 悩み事は何にもない
感じる事が出来るから……
感じる事が出来るから……
以上