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『　1年2組　学級日誌　』　 (新長編小説)　
　　　　　　・・・半世紀前の女子高校の学級日誌・・・
　　　　　　　　（昭和47〈1972〉年４月～４８年３月まで）

　　




【１０月１１日（水）晴　３７番Ｎ・Ｙ】

「体育祭」も終わった。 僕という一人の人間の中には、

二人の「私」と「僕」がいる。

僕には、女になる時と

男になる時があって、

今は何となく男みたいな感じかな。

何故、今「僕」という言葉を

使いたいのかというと、

Ｍ先生、僕は貴方に反発を感じている。

「１０月５日のＮ・Ａさん」の日誌で、

貴方がＮ・Ａさんに対して

書いた返事のことで……。

あれは、君

（Ｍ先生の事を、

今は同等のつもりでいるので、

貴方の事を「君」と書きます。）

が　責任をもって

君自身が経験しての発言なのか！！？

Ｎ・Ａ君の事を思っての事

というのは認めるが、

僕はどうしても心の隅にひっかかる。

僕は、言いたい、君に。

“たった１冊の本を読んだだけで、

何が分かるか！！！

　貴方は高校時代に女の子と

付き合った事があるそうだが、

もちろん、貴方の事、

不純な事はなかっただろう。

貴方の読んだ本は、お偉い先生ので、

貴方には手に取るように分かっただろう。

　でも、それは、本を読んでの事で、

貴方自身が　経験　しての事ではない。

貴方の「男の子」についての講義で、

ショックを受けたとみんなは言ったけど、

『いくら美しくても、

においのない花のごとく、

実行の伴わない人の言葉は、

良く説かれても意味を持たない』

に当てはまるのではないか、

と僕はこの頃思うようになってきた。


“Ｍ先生、すいません。

私本当はこんな事を

書くつもりじゃなかったんです。

純情なＭ先生は、

もう愕然（がくぜん）としていらっしゃるでしょう。

でも、私はあまりにも

「こうだ」と決めつけているＭ先生に、

何となく腹が立ったんです。

１０月５日の「Ｎ・Ａ」さんだって、

あの話しをもっと爽（さわ）やかな感じに

したかったのかもしれませんが、

あの話しでは、ただ

“友達がＫｉｓｓをした”

程度に終わってしまいます。


Ｍ先生に次のような事を

言って欲しかった。

“女の子って、

Ｆｉｒｓｔ　Ｋｉｓｓは

木漏れ日の中で、

とか、ＦｉｒｓｔＫｉｓｓレモンの味、

とか夢のように描いています。

僕はそんな事、止めやしません。

大いにその夢に向かって行くべきです。

でも、現実とは違うんだって事を、

もう意識すべきです。”


この文章を読んで分かるように、

私だってＭ先生と同じく、

私達の年頃は、

キケンだから気を付けなくては、

と思っています。

そして「そんな事」をしてはいけないって、

はっきり書かれた時、

私の心には、自分の置かれた立場を思い、

弁解したかったんだと思います。

あまりにもＭ先生の書かれた事が

「図星」だったから。

でもね、Ｍ先生、

いつもいつ、夢のように

描いていたきれいな事が

汚い現実となった者の気持ちが

分かりますか？

これは、経験したものしか分かりません。

だから、私のようにならないため、

皆、私の言う事を聞いて下さい。


“後悔するしないは、

その時への　

女の子の持っていき方次第です。

みんなの

Ｆｉｒｓｔ　Ｋｉｓｓ　は、

とってもきれいなもので

あります様に”


　　　では、ずい分勝手できつい事を

書いてしまってすいません。

　　　でも、本当に私は、

思ったのです。

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９月になってからこの日誌に

『思春期の性と悩み』

（木崎国嘉（くによし）著）の本から、

「男の子の性」について、

書いたり話したりしてきた

（この本は今、

教頭先生が読んでいる）。

君達の年齢で大事な事だと思って、

「ＨＲ」で話そうと思ったんだが、

悩んでしまって、苦しんでしまって、

今までに話した事のない事を話し、

理解してもらわなければならない。

ああ、あの時のぼくの気持ちを

君は理解してくれていると思う。

しかし、

ぼくは、君達女の子の夢を

壊すのが恐かった。

９月２６日の「ＨＲ」の後

１週間の僕の授業で、

「ショック」だったと手を挙げた生徒は、

三分の一の十数人いた。

ちょっとビックリした。

ああ、勉強がたりない。

君が書いてくれた

「Ｍ先生には、

次のような事を言ってほしかった」

の部分を、

言えるようにしようと思う。

女の子の教育って、

本当に難しい。

この間のＨＲで

「1年2組のクラスについて」を

書いてもらったが、

いろんな意見があり、

つくづく難しさを感じる。

その中に

「Ｍ先生は、生徒を信じ過ぎる」

と書いてあったけど、

僕に残されているのは、

君達を信じるしかないと思う。

最後の最後まで信じていたいと思う。

そうでなくては、

教師をやってられない。

教師と生徒は、

お互いが

「信頼する」ことから始まると思う。　

　　以上

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