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『 1年2組 学級日誌 』 (新長編小説)  
      ・・・半世紀前の女子高校の学級日誌・・・
        (昭和47〈1972〉年4月~48年3月まで)

  



【 4月21日(金)晴れ(風強し) 

12番 K・Y 】

   今までに一度だけ日記を

書いたことがあります。

それは、中学校二年のころのことです。

想い出話になりますが、

とてもとても悲しい物語なのです。

皆さん聞いて(読んで)下さい。


 それは私が中学2年生の頃の事です。

私たちの担任の先生の事です。

 A先生は、

私にとって最も忘れがたい先生で

あったと思います。

その先生は、

私たちに「日記」をつけるように

とおっしゃいました。

 皆は各1冊づつ日記帳を作り

五・六人で一つの班をつくり、

その班ごとに日を決めて先生に提出し、

それを先生が読み、

返事を一人一人に書いて返して

下さいました。

時には励ましの言葉、

時には毎月あった月例試験の結果を

その日記帳に書いて下さいました。

私にとっては、とても励ましになり、

また今度もがんばらなくてはと

思ってやりました。

 先生については、いろいろ

思い出があります。

 学級会で、

クラスの机をきれいにしようと

決めたときです。

放課後、10人ぐらいで、

男子は机の上を機械でこすり、

女子はニスを塗り磨きました。

暑い日でしたが、

先生が最後にアイスクリームを

買ってきて

プレゼントしてくれました。

みんなはきれいになった机を見ながら、

アイスクリームを食べ大喜びしました。

 2学期も先生を中心にクラスは

みんな仲良しでした。

いじめなどどこにもありません。

冬休みがきて、

明日が大晦日という日の夕方、

友達から電話があり、

「A先生が死んだ。明日はお葬式だから、

学校に集まるように」

ということでした。

原因は分かりませんが、

踏切の手前に単車を置き、

踏切へ飛び込み自殺をしたそうです。

自殺はひきようかもしれませんが、

とても勇気がいります。

先生は神経質な人だったので、

何か思い悩んで自殺を選ばれたのだと

思います。」

 それから1年以上たった卒業式の時、

A先生のことが話された時、

こらえていた涙がどっと溢れ出ました。

これが私の一番の想い出であり、

心に残っていることです。


 また涙が出そうなので、

話を変えて……、

京都の校外学習は素晴らしかったです。

東本願寺の鳩が可愛かったし、

植物園のチューリップがとても綺麗でした。

お天気さんありがとう。

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 ここ数日、

日誌に“死”に関していくつかの文章が

出ている。

それは、川端康成の自殺が発端だと思うが、

“死”について書いてみようと思う。

 ぼくは、死ぬことがとても恐い。

4月19日の日誌に書いた

(トラックに跳ね飛ばされこと)が、

ぼく自身が死んだような状態になった。 

あのまま1トン車の下にぼくがいたら、

ぼくは、今、

ここでこうしてボールペンを

走らせることは出来ない。

あの時から、

ぼくは、生きる一日を最上の状態で過ごし、

時間のすべてを充実したものにしたい、

と心を決めた。

 “死”、今の自分がこの世界では、

全く “無” になることだろう。

人間が生きて行くには苦しい事の連続だ。

だから、人間にとって“死”は、

苦しいことから初めて救われる、

 “楽(安楽)” の世界なのかもしれない。

“無”であるならば、

苦しい事はなくなるから。

 しかし、ぼくは死にたくない。

ぼくには理想(人間味のある教師になる)

がある。

その理想が達成されていないのに、

死ぬわけにいかない。

また、ぼくには家族がある。

そして、友や君たちがいる。

その人達を悲しませる訳にはいかない。

 “自殺”なら、

人に迷惑をかけないから問題がない、

という人がいる。しかし、

人が死んだ後の亡骸(なきがら)を

誰が処理するのか。

死んだ人には何も出来ない。

誰かの世話になるしかない。

 “自殺”するには、勇気がいる、という。

(君も書いている。)しかし、

そうは思わない。

例えば、車に乗ってアクセルをふかせば、

それで死ねる。

それが、勇気だろうか。

本当の勇気とは、

この世界で、苦しい事の連続の世の中で、

それに立ち向かい、努力し、

長い年月を生きていく、

ということだ、と思う。

人間は、生きているから人間であり、

生存することから出発して、

初めて人間である。

 ぼくのモットー(主義・主張)


 “生きる一日一日を、最上の状態で過ごし、

かつ、他人に与える印象もまた、

明るさや労(いたわ)りや

真心(まごころ)に

満ちたものにしたい、

という覚悟をして、

その時間のすべてを充実したものにしたい、

と心に決めている人間、でいたい。”

     以上

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